第10回|バッテリーとオルタのはなし

バッテリー交換した経験は?」

「自分では無いね」

「普通の電池交換と一緒です。プラスとマイナスの端子に接続されているケーブルを外すのに10mmの工具が必要ってだけで」

「私にも出来そうね」

「フツーに古いの外して新しいのをセットするだけじゃダメなんです?」

外すときはマイナス端子から。取り付けるときはプラス端子からこの順序は絶対に守ってください。これ整備士の間ではイロハのイですが、素人さんは存外知らない人が多い」

「守らなかったらどーなんの」

ショートの危険があります。エンジンルームのバッテリーをよく見てみてください。両端子のケーブルはそれぞれ何処に繋がってるか判りますか?」

「プラスは奥の方に入って行ってるからよく見えないわね……マイナスの方は……あ、すぐ近くの壁にボルトで止まってるわ

「そう、そこが重要です。ボデーアースと言うんだけど、クルマって実は車体全体が巨大なマイナス端子なのですよ」

「ぜ、全体が??

「バッテリーから直接車体に繋がってるし、車体は鉄で出来てるんだから当然そうなるわね」

「先にプラス端子を外すという行為は、周囲が剝き出しのマイナス端子に囲まれた状態でプラス端子に接触するという危険な行為なわけですよしかもご丁寧に金属製の工具を使ってね

「あ、作業中に工具がどっか別の場所に軽く触れただけでバチッって火花が飛んじゃうわけか。なるほろ」

「エンジンルームは基本的に火気厳禁です。ショートは大きな事故にも繋がりかねません。マイナス端子を先に外してしまえば周囲もマイナスじゃなくなるので、安全にプラス端子を外せるでしょ」

「車そのものが剥き出しの電極だなんてちょっと怖い気も。触れてはいけないプラスの配線は車体のあっちこっちに伸びてるわけでしょ」

「だから当然配線は徹底的に絶縁されていなければなりません。バッテリーのプラス端子にだけ赤いカバーが付いてるのもその為です」

「理由を聞けば確かにナットクだわね」

「なんでそんな仕様にしたのかしら」

「自動車には至る所に電動装置が付いてるよね。前後のライトや室内灯、ドアガラス開閉やワイパーだってモーターで動いてる」

「うん」

「それら全てにプラスとマイナスの配線が要る。電源から装置の取付個所まで2本のケーブルを引っ張らなきゃならない。そこで誰かが気付くわけよ。『あ、そういえば車って鉄じゃん』って。どっちかの配線を車体に代用させてしまえば伸ばす配線は1本で済むじゃんって。かといって”行き”のプラスの方をボデーに繋いじゃうと装置までの伝導経路がそのまま「抵抗」になっちゃうから、”帰り”のマイナスの方をボデーに設定した―――ってのが当初の理由じゃないかな、知らんけど

「知らんのかい。憶測かい」

豪快過ぎる発想の転換だわ…

「まあ大昔の車なら電装なんてせいぜい簡素な造りのライトくらいだからそれでも良かったけど、最近の車のデリケート過ぎる装備じゃ全てボデーアースに頼る横着はもう無理だけどね。だからバッテリーのマイナスに直結させるケーブルをわざわざ増設して電流を安定させる『アーシング』という技法もあるのよ」

「プラス端子のケーブルはどっかで分岐して各装置に繋がってるん?」

オルタネータという機器に繋がっています」

「どっかで聞いたなソレ」

発電機です。エンジンの話のところで少し触れました。どーせマトモに覚えちゃいないと思いますけど」

うん、覚えてへん

「(コノヤロウ…)実は車で使用される電力の全ては、バッテリーではなくこのオルタネータによって賄われています。バッテリーの本来の役割はズバリ、エンジン始動。最初の”圧縮”を作る為にクランクシャフトを強制的に回すスターターの駆動―――ただそれだけです。一旦エンジン掛かってしまえばもうバッテリーやることありません。エンジンによってブン回されるこのオルタネータ―が、以降に使う全ての電力を作ってくれます。
……つまり、エンジン掛かってないのにライトやエアコンやカーステなどを使いまくるとバッテリーの蓄電分を消費してアッという間にバッテリー上がるので注意」

「ああ、始動時に消費した分のバッテリーを充電するためにオルタネーターへ直接繋がってんのね。そういえばそんなこと言ってたな」

うん、覚えてへん

(このアンポンタン…)発電機の原理は普通のモーターと基本的には一緒です。出力と入力が逆ってだけで」

「どういう意味?」

「第一回の時にちょっとだけモーターの構造の話をしたけど覚えてる?」

うん、覚えてへん

「オッサン、喉元まで出かかってたやつが口から出とるで」

甘茶がどうとか言ってたやつ?

アーマチャコイルな。モーターは通電したアーマチャコイルが内壁のフィールドコイルで作られた磁場の中で電磁石化することで反発して回転するという仕組みだったけど、発電機はその逆なのよ。電磁石の方を機械的に回転させる事で電気を発生させる。エネルギーの流れが逆。構造はほぼ一緒」

「小学校の理科の実験でやったわね」

このアマいっぺんバッテリー液でシャンプーしたろかコラ

「そういえばバッテリー液って何が入ってるんですか?」

「アンタみたいに毛根死滅したらどーすんのよ」

まだ死滅してへんわっ

「レモン電池ってのがあるくらいだから中身が酸性なのはなんとなく想像してたけどまさか硫酸とわ」

「バッテリー液って減るのよ、電気分解や自然蒸発で。カーショップにもバッテリー補充液って売ってるでしょ」

「あるわね」

実はアレ、”水”です。原則としてバッテリー液から蒸発するのは水成分だけなので硫酸分は残ってるのよ。だからそれを薄めて元の比重に戻すためのものなんでね」

「じゃあ水道水でいいじゃん?」

ダメ。不純物が一切入ってない精製水限定です。上がりやすくなるなど、バッテリー性能にも大きく影響します。ついでに言っとくけど、飲むなよ?

「”純水”なのに?」

「ミネラルとか入ってないから普通にマズいし、科学的にはキレイでも飲料利用を前提に作られていないものは衛生的観点からも飲むべきではない。日本の水洗トイレの水は飲んでも大丈夫なくらいしっかり浄化してあるが普通飲むか?

「硫酸の濃さ―――常温で38%、水に対する重量比で約1.3弱?この比重が重要なんで、バッテリーは液量だけではなく比重もチェックしましょう。補充時や定期点検とかで」

「「はーい……」」

「さて、バッテリーとオルタの話が出たこの流れで、せっかくだから次回はハイブリッド車をテーマに話しましょうかね」



(続…?)

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