
第7回|デファレンシャルのはなし

25歳
今日の晩御飯の事を考えている。

22歳
考えることをやめている。

年齢不詳
自分の残りの人生について考えている。
じどうしゃのしくみ
|第7回|
デファレンシャルのはなし

「FFと言えば何を思い出しますか?」

「ファ●ナルファンタジー!」

「フ●イナルファイト!」

「もっかい確認しとくけど、今、クルマの話してんだわ」

「今のは質問が悪い」

「フロントエンジン・フロントドライブ。巷のクルマは今、ほとんどがコレですよ。エンジンが前にあって前輪が回る」

「それが何なのよ」

「前回に話したトランスミッションはね、FR(フロントエンジン・リアドライブ)の場合の話なのよ。後ろのタイヤが回って、前輪は舵取り専門。昔はこっちの方が多かったけど、今はほとんどFF。ちなみに、バスのようにエンジンが後ろにあるRR、真ん中にあるミッドシップってタイプもあるよ」

「FFが主流になった理由って何なんです?」

「FRは前にあるエンジンから駆動輪である後輪まで動力を伝えるために、重いプロペラシャフトなどの部品が必要だけど、FFならエンジンの近くに駆動輪があるから、パワートレーン(動力伝達経路)が短くできるし、部品が減って軽量化も実現でどーたら、前輪が駆動と操舵を兼ねることで機構が複雑化するけど、駆動輪にエンジンの荷重が掛かるのでグリップが増して凍結した路面での安定性がこーたら(この間1.2秒)」

「聞くんぢゃなかった」

「もはや理解してもらおうという気ナッシングやろ、アンタ」

「FRのトランスミッションの場合、軸回転するアウトプットシャフトとリアタイヤのドライブシャフトって向きが90度違うやん?」


「確かに。動力を直角に曲げる必要があるわね」

「そこに付く装置がデファレンシャルですよ」


「ジャッキをかます場所だと思ってた」

「シャフトの回転軸を直角に曲げる最も一般的な方法は、笠歯の歯車(ベベルギアという)を使う方法です。デフの内部も基本原理はコレです」


「ただラジコンとかなら別にこのままでもいいんですが、これだと左右のタイヤが一本の車軸で繋がってますので、問答無用で同じ回転数になりますよね。自動車だとそれはマズい」

「なんで?」

「カーブを曲がる時、内側と外側のタイヤでは軌道も移動距離も全然違うやろがい。両方のタイヤが同じ回転数で曲がるということは、どちらかのタイヤを消しゴムのように摩耗させながら進んでるということ」

「団体行動の四列縦隊で行進中に曲がると、一番内側の人はほとんどその場で足踏みだけど、外側の人になるほど歩幅を広げて進まなきゃいけないでしょ? 体育の時間にやらなかった?」

「団体行動の時は保健室で寝てた」

「……この健康優良素行不良娘が」

「つまり、それを解決するのがデファレンシャルということ?」

「その通り。デフは動力を直角に曲げるためだけにあるんじゃなくて、旋回の際に左右のタイヤの回転数を上手く振り分けてくれているのですよ。プロペラシャフトの回転が100なら直進の時は左右100:100だけど、右折時は120:80のように差をつける。だからデファレンシャルは日本語で“差動装置”と訳されます」

「そんなこと出来るんだ」

「だから内部構造は上の図のような単純ではなくてスゲー複雑です。どうせ理解できないでしょうから説明も割愛」

「ナメとんか」

「シバきますよ、マジで」

「この気が触れたようなベベルギア集合体の説明を受ける覚悟あんのか、貴様ら。一番シンプルなオープンデフでコレやぞ。たっぷり一時間くらい使って解説したろか、コラ」


「私たちが間違ってました」

「正直でよろしい。で、FFの場合はエンジンも駆動輪も前にあるからミッションとデフがコンパクトにまとまってエンジンにくっ付いてんの。トランスアクスルって言います。やってることは一緒です」



「さて、こんな便利なデフにも弱点があります。クルマが縁石に乗り上げて片輪浮いちゃったり、凍結した路面で動かなくなってしまった経験ないです?」

「知らん」

「デフはさっき説明した“回転数を左右に配分する”機構の性質上、片側のタイヤだけが完全フリーになった場合、ちゃんと接地してるもう片方のタイヤが全く回転してくれなくなるのですよ。200:0になっちゃう。だから脱出できない」

「ああ、そうか! 宙に浮いてたり氷で滑ってる方のタイヤが抵抗ゼロでブンブン空転するから、そっちに動力が全部持っていかれちゃうわけね」

「まあ大体そんなイメージ。それを防止するために一時的に左右を直結状態にする“デフロック”という機能を持つ四駆は多いね。スイッチでオンオフできるの」

「なるほど」

「その辺をなんやかんや上手く制御(説明は割愛)してくれるLSD(リミテッドスリップデファレンシャル)という便利なタイプもあります。空転しているタイヤに作為的にブレーキをかけることで、接地タイヤの駆動力を復帰させるブレーキLSDという方式もあります」

「全く別ジャンルの“LSD”なら詳しく知ってるんだけどな」

「むしろなんでそっち知ってんだ」

「なんで知ってんだ」

「秘密」
(次回につづく)
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