
第6回|トランスミッションのはなし

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|第6回|
トランスミッションのはなし

「タコメーターって知ってる?」

「蛸の大きさを測る器具かしら」

「未来から来たマッチョなロボットでしょ」

「……うん、念のために今一度確認しとくけど、今、クルマの話してんだわ」

「知ってますよ、それくらい。スピードメーターの隣にあるやつでしょ」

「そう、だいたい上が8000~11000くらいの目盛りが切ってあって、アクセル吹かすとブワ~ンと針がハネ上がるやつです。タコ(tacho)は速度を表すギリシャ語が由来だそうですが、このメーターでは『エンジン回転数』を示しています。単位はRPM」

「ロールプレイング……」

「黙れ若造。Revolution Per Minuteの略です。1分間に何回転してるかという意味な」

「実際どんなもんなんですかね? 1分間のエンジンの回転数って」

「車種にもよるけど、アイドリング(アクセルを踏まずにただ回している状態)で700~800前後かな。単純に60で割って秒間約12回転」

「へぇ、結構速いね」

「めっちゃ速いわ。軽くアクセル吹かすだけで10倍くらいにはなる。ね? こんな勢いで回ってるシャフトに、直接、タイヤ繋げたら制御がタイヘンだと思わん?」

「確かに」

「使いやすい回転にまで減速しなきゃいけないってことです。それも、用途・状況に応じて適切な回転数を選択できるようにする必要があるわけです。エンジンの回転数はそのままに、途中でかますギア(歯車)の組み合わせで、それらを可能にしているのがトランスミッションなのです。日本語で“変速機”」

「前回に学んだクラッチの後ろについてるんだっけ?」

「そう。正確にはクラッチとミッションは一体になってるんだけど、役割が違うので分けて解説してます。前方後円墳みたいな形してて、丸い部分がクラッチ。その後ろがミッションね」

「名前からして前方後円墳は丸い方が後ろなのでは」

「お黙りやがれ。イメージだけ伝わればいいのだ!」

「変速機なら、ママチャリにも付いてるよね」

「その通り。自転車に乗ってる人なら、ギアの組み合わせによる回転数の制御は、誰もが経験済みのはずですよね。発進時や坂上る時は1速、スピード乗ってきたら2速にして……」

「3速くらいまであったような気がする」

「残念ながらスピードと馬力は両立しないのですよ。1速は力はあるので漕ぐのは楽だけどスピードは出ない。逆に3速は漕ぐのが重くなるけど、スピードが乗ってから使えばさらに速くなる。状況に応じてどっちかを選ばなくちゃいけない。車も同じで、発進時や追い抜き時の加速ではスピードより、むしろ地面を蹴る力の方が優先されるので低速ギアを。ある程度スピードが出てからは、もう力は必要ないので高速ギアに切り替えて効率を優先する」

「ギアの“組み合わせ”って言ってたけど……」

「原理は単純だよ。入力のギアより大きいギアを噛ませば、減速する代わりにパワーが得られる」


「逆に小さいギアを噛ませば、パワーは期待できないけど、より速く回転する」


「入力と出力のギアの間にもう1個ギアを挟めば回転方向が変わる。これがいわゆるバック(リバース)でしょ」


「なるほどね」

「MTの場合では、エンジンからクラッチを経て伝わってきた動力が、トランスミッションのインプットシャフト(入力側)を回しています。インプットシャフトにはシフトの数だけギアが付いてて、隣に並ぶカウンターシャフト(出力側)の各ギアと嚙み合ってます。でも、シフトレバーがN(ニュートラル)になってる時はシャフトとギアがフリーになってるので空転です」

「あ?あああ???」

「ニュートラルはクラッチを切ってるのと同じで、動力がそこで遮断されている状態。シフトレバーを入れることで、その当該ギアだけがシャフトとロックされ、変速された動力がカウンターシャフトに伝わります。それが駆動輪への出力となるワケです」

「いきなり解らんよーになってきたぞ」

「一例をものすごくザツな下図に示しますが、切り替えの仕組みは解らんでもいいです。レバーの操作は、どの入力ギアからカウンターシャフトに動力を繋ぐか、の選択なワケです」


「ホラ、さっき言ったっしょ。入力より大きいギアに接続すれば減速、小さいギアなら増速、間に一個噛ませば逆回転になるの」

「AT車でも、そこは同じ構造なんですか?」

「良い質問です。原理は同じですが、さらに巧妙かつ複雑です」

「ワタシ、余計なコト聞いちゃった気がする」

「AT車のギア構成は、軸方向からの断面図で見た方が解りやすいです。まず真ん中にあるのがサンギア。その周りを周回する、3つの繋がったピニオンギア。そして、最も外側にある内向きの歯車がリングギア」


「どこが解りやすいちゅーねん」

「この3種のギアにはそれぞれに油圧で作動するクラッチとブレーキが付いてて、シフトごとに、“どのギアを入力に繋ぎ、どのギアをそこで固定させるか”を切り替える事ができるようになってます。その組み合わせでさっきの『減速』『増速』『逆回転』を全てこなしちゃう。例えば、真ん中のサンギアを固定してピニオンギアを入力にすると、ピニオンギアはサンギアの周囲を転がりながら自身も回転するので、それによって回されるリングギアは増速します」


「………」

「サンギアを入力にしてリングギアを固定すると、ピニオンはゆっくり転がります。これが減速」


「……」

「サンギアを入力にして、ピニオンの方を固定するとリングギアが逆回転します」


「……」

「ちなみに、サンギア入力、ピニオンとリングギアをロックしてお互い回転しないようにすると、全体が一体になって同速回転します。これがエンジン直結状態……ってオイ??」

「――――」

「心肺停止を確認しました」

「死んだの!?!?」

「とにかく、MTだろーがATだろーがトランスミッションは“ギア比を変えて、用途に応じた適切な速度を選べる”ようにしてくれてるんですね」

「そーそー。ちなみに御存知の通り、MTはその選択をドライバー自身が決めてレバーの手動操作にて行いますが、ATはコンピュータが自動でギアチェンジをしてくれるという点も大きな違いかな」

「どうやって変速の判断をしてるんですか?」

「各部に設けられたセンサーからの信号を読み取って、コンピュータが総合的に推理しているんだ。コンピュータは目も耳も持たない。代わりにセンサーで車速・エンジン回転数・アクセル開度(アクセルペダルをどれだけ踏んでるか)などは知ることができる。発進後はスピード監視しながら、1速から徐々にシフトを上げていくけど、ドライバーがアクセルを急に踏み抜いたら『加速する気だな』と判断して、一旦シフトダウン。アクセルそのままなのにスピード落ちてきたら、『こりゃ坂に入ったぞ』と判断して、やはりシフトダウン」

「ああ、確かに登坂中とか急にガクンとなって、エンジン回転数上がりますもんね」

「坂に入ってエンジン苦しんでるのに、アクセル踏まずに漫然と運転してる貴女の代わりに、コンピュータがわざわざギアを落としてくれたんですよ」

「その言い方はムカつくけど、確かに賢いわ、AT」

「ギアという概念がそもそも無い、CVTなる特殊なミッション機構もある。向かい合った2枚のテーパー付きプーリがその幅を変えることで、そこに引っ掛けてあるベルトの回転径を変化させて出力を制御するの。これにより1速、2速と段階で区切らず、微調整可能で無段階のスムーズな変速を可能にしている」

「言ってる意味はサッパリ解らんけども、とにかく賢い機能であることは解った」

「賢いよ。そこで心神喪失してる、おバカ娘よりはね」

「誰がおバカだ、コラ」

「あ、生き返った」
(次回につづく)
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