
第3回|エンジンのはなし【その2】

25歳
こ~見えて、空手3段の腕前です

22歳
こ~見えて、そろばん4級だったり

年齢不詳
こ~見えて、2級整備士資格持ち
じどうしゃのしくみ
|第3回|
エンジンのはなし
(その2)

「前回説明した“爆発のエネルギーから回転運動を取り出す”エンジンのシリンダ。これが一本だけあるのが単気筒エンジン。スクーターとかそうですね。自動車には複数入ってます。これがたくさんあればあるほど、容量がデカくなればなるほど、高出力なエンジンということになります。全てのシリンダ内積を合計した総排気量という呼び方をします。車検証にも書いてありますよね」

「何千㏄とかいうやつね」

「土四郎(彼氏)がせどりっくは確か3000ccくらいって言ってたかな? よく知らんけど」

「多くのクルマは4気筒で真っ直ぐ一列に並んでます。『直列4気筒エンジン』ですね。1本のクランクを4人で協力して回してるイメージですわ」


「シュールな図だなぁ」

「ただ、これだとちょっとバランス悪いよね。全員片側に寄ってるから窮屈そうだし。どうせなら二人ずつ左右に分かれた方がイイに決まってる。それが『水平対向エンジン』です。スポーツカーに多い」


「これだと4人の位置が互い違いになるから、確かに窮屈さは無くなるわね」

「クランクシャフトの長さを短くできるし、回転バランスだってきっと良い。でも、エンジンが平たくデカくなるので、普通車には使いにくいという欠点もある。なら水平とまではいかずとも、せめてちょっとだけでも角度つけて窮屈さを無くそうぜ、ってのが『V型エンジン』です」


「ちなみに、このVの角度が完全に180°まで広がっちゃってるタイプも実はあります」

「もはやV型ですらねえ……。水平対向と何が違うんですか」

「クランクを掴んでる場所。……まあ、この話はいいや」

「だんだん説明と絵がザツになってきてない?」

「ザツにもなるわっ! おまいら話聞いてる間、ずっと目が死んどるやないか」

「まあまあ。とにかくこれで“突き出た棒がずっと回り続けるハコ”が出来たわけでしょ? その棒にタイヤをつけたら自動車が出来上がるワケですね」

「ンなワケあるかい」

「なんでよ」

「秒で壊れるわ。エンジンの内部は目にも止まらん速さで爆発が起き、鉄同士が打ち合い擦れ合い暴れまくってんねんぞ。めっちゃ熱くなってアッという間に焼き付くちゅーねん。冷却や潤滑のための装置が必須だし、そもそもクランクシャフトにタイヤを直接繋げたりしたら、回転速すぎて、キー回した途端、スッ飛んでいくわ。それらの問題をカバーするためにクラッチとかミッションとか」

「その辺の話は別の機会にするとして、エンジンの話はもう終わりですか?」

「ちょっとだけディーゼルエンジンの話をさせやがれください」

「(……メンドくさっ)」

「ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは、燃料が違うってことは知ってますよね?」

「軽油でしたっけ」

「え? 軽油って『軽自動車用の燃料』じゃなかったの???」

「……おまい、絶対一人でセルフのガススタ行くなよ」

「まさか軽自動車には軽油、原付には原油、重機には重油、ハイブリッド車には廃油、トレーラーにはラー油、消防車には醤油……とか思ってるクチじゃないでしょうね」

「違うのっ!?!?」

「オマエは金輪際クルマに近づくな。……ディーゼルエンジンは使用燃料が違うように、ガソリンエンジンとは基本原理も構造も少し違うのですよ。ガソリンエンジンが『圧縮した混合気に点火して爆発させる』のに対し、ディーゼルは『圧縮により高温高圧になった空気中に軽油を噴射して自然発火させる』というシステムなのです」

「わざわざスパークプラグで着火しない、と」

「軽油はガソリンに比べて着火点が低いので 熱い空気中に出されただけで 勝手に火が着くんです ガソリンエンジンの爆発は 当然 点火するスパークプラグの位置から放射状に広がっていきますけど それだと隅々まで不整着火なくスムーズに燃え広がるには 設計における寸法上の限界があるんで 1気筒あたりの排気量が限られて 排気量を増やすには気筒数を増やすしか方法が(早口)」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「その点 ディーゼルは圧縮された空気そのもの全体が火花のようなものなので 燃焼室の大きさに制約が無く 船舶用などの大排気量エンジンにも使えますし お寿司低速域でのトルクも強く 何より燃料が安いのが(無呼吸)」

「一旦黙れ。日本語でしゃべれ」

「隅々まで日本語ぢゃあ」

「そんな利点ばかりなら、なんで皆ディーゼルにしないんですかね」

「原理的に熱と圧力で酷使されまくるので、オイル交換などのメンテ代が嵩むのと、壊れたら大変。あと、空気をめっちゃ汚しまくる。だから古いディーゼル車の乗り入れに規制が入ってる地域もあるでしょ」

「ああ確かに」

「そういえば、いま唐突に思い出したので、この流れついでに言っちゃうと、ガソリンエンジンにはもう一つ『ロータリーエンジン』という、かなり変わり種のタイプもございまして」

「その話、X JAPANの『Miscast』の間奏より長い?」

「繭型のシリンダ(正確にはハウジング)の内壁をなぞるように偏心軸回転するオムスビ型のピストン(正確にはローター)という、もう完全に構造が別モンです」



「回転するローターとハウジングの間に3つの空間ができるでしょ。それぞれが内積を変えながら移動することで、吸気・圧縮・爆発・排気をこなすシリンダとなります。爆発エネルギーが直で回転運動に変換されるので、とてもパワフルです。その代わり、見りゃわかると思うけど、めっちゃ燃費悪いです。爆発の頻度が多いからね」

「……誰が考えつくんだこんなもん」

「ホント、昔の人はスゴいよね。現在なら全て電子制御でやってることを、当時はほぼほぼカラクリのみで実現していたこともスゴい。そして、エンジンはガソリンもディーゼルもロータリーも例外なく、常に尋常じゃない熱を発します。この熱は前回に言ったように燃料の霧化を助けたり、暖房の熱源としてちゃっかり利用されてたりもします」

「ああ、そういえばそうか。寒い冬なんかはエンジンかけてすぐ暖房入れても、全然温かくないもんね」

「エンジンが温まってないうちはね」

「その熱を利用してたのか……賢いなぁ」

「エンジンは自身が巨大な熱源だから、何かを温めるのは得意です。EVのようにモーターで動く電気自動車には爆発が無いので、その熱を利用できないでしょ? だから暖房専用の電熱線を使って一生懸命温める必要がある。使えばバッテリー消耗して航続距離も縮む。だからEVはおしなべて冬が苦手なんす」

「昔ながらの内燃機関も捨てたモンじゃないわね」

「その代わり、エンジンは自身が熱源であるゆえに冷やすのは苦手。エアコンのクーラーも専用のコンプレッサー回して、冷媒送って無理やり冷やしてる。そして、エンジン本体もとにかく常時冷却し続けなければ、焼き付いていずれブッ壊れる。その確実な冷却と潤滑はエンジンにとって逃れられない永遠のテーマといえます。じゃあ、次回は冷却装置、ラジエターとかLLCについてお話ししましょうかね」

「日本語でおk」

「日本語ぢゃあ」
(次回につづく)
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